死亡保険に加入する際に、保険金受取人となれる人の条件は保険会社や保険商品により決まりがあります。契約者が希望するからと言って、誰でも受取人にできる訳ではありません。
さらに誰が受取人になるかということに関連しては、契約者、被保険者、受取人の関係によって、受け取った死亡保険金にかかる税金が変わってきます。したがって、死亡保険を契約する際は、その時点の家庭状況を十分考慮したうえで、最適な人を指定すべきです。この記事では、死亡保険金の受取人になれる人の条件や変更方法などを解説します。
1.死亡保険金にかかる税金は契約者と受取人などの関係によって変わる
死亡保険金にかかる税金は契約者・被保険者・受取人の関係性(誰がなっているか)によって異なります。ここでは、まず契約者、被保険者、受取人の概要をそれぞれ解説します。
1-1.死亡保険金の受取人とは?
死亡保険金の受取人とは、被保険者が死亡した際に保険金や給付金を受け取る人のことです。契約者以外のパートナーや子どもも受取人として指定できます。受取人は生命保険を契約する際に指定しますが、 契約後も保険会社や代理店に連絡すれば変更可能 です。事情が変わったときは、速やかに変更の連絡をしましょう。
なお、誰を受取人に指定するかによって、かかる税金の種類が変わるため注意が必要です。税金のかかり方も考慮して受取人を設定するとよいでしょう。
1-2.生命保険の契約者
生命保険の契約者は保険会社と契約し、契約上の権利義務を負う立場の人です。契約者は、指定された保険料を支払います。
保険を途中で解約した場合で、解約返戻金がある場合は契約者が受け取ります。
1-3.生命保険の被保険者
生命保険の被保険者は、その保険の対象になる人を指します。契約者以外の人を被保険者にすることも可能です。
被保険者が死亡すると死亡保険金が支払われます。また、保険会社が規定している一定の高度障害状態になった際に、死亡保険金と同額の高度障害保険金が支払われます。
2.死亡保険金の受取人にできる人とその条件
死亡保険金の受取人に設定できる人には、条件があります。以下で詳しく解説します。
2-1.受取人になれるのは原則として配偶者と2親等以内の血族
死亡保険金の受取人には、契約者の配偶者がなることが多いでしょう。しかしながら、配偶者以外であっても、子どもや親など2親等以内の血族を受取人に選ぶこともできます。
なお、死亡保険金の受取人が相続人である場合、保険金はみなし相続財産として相続税の対象となります。この場合、死亡保険金への相続税の非課税枠が利用できます。
なお、民法では法定相続人は以下のように規定されています。
法定相続人
配偶者は常に相続人になります。配偶者以外は、以下の優先順位で相続人になります。
- 第1順位:死亡した人の子ども
-
第2順位:死亡した人の直系尊属
(父母や祖父母など) - 第3順位:死亡した人の兄弟姉妹
※上位者が相続人になれば、下位の人は相続人にはなれません。たとえば、第1順位の子どもが相続人になる場合、親や兄弟姉妹は相続人にはなれません。また、同じ順位の相続人が複数いる場合、その全員が相続人となります。
※参考
国税庁WEBサイト「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」
2-1-1.未成年の子どもでも受取人になれる
未成年の子どもでも、死亡保険金の受取人に指定することが可能です。年齢に関係なく死亡保険金の受取人になれるため、乳幼児でも受取人として指定できます。
ただし、未成年の子どもは保険金の請求はできないため、実際には 親権者や後見人が手続き を行います。その際には、子どもの親権者や後見人であると証明できる書類の提出が求められます。一般的には戸籍謄本や運転免許証のコピーなどが該当しますが、詳細は各保険会社に問い合わせましょう。
2-1-2.孫を受取人にする場合の注意点
相続対策をかねて孫を死亡保険金の受取人にすることも可能です。ただし、子(孫の親)が生存中は孫は法定相続人に該当しないため、相続税の生命保険金の 非課税枠(法定相続人1人あたり500万円)が利用できません 。孫を死亡保険金の受取人に指定する場合は、この点に注意が必要です。
また、孫が代襲相続人でなければ相続税が2割加算になります。
2-2.2親等以内の血族以外の人
保険会社によっては配偶者や2親等以内の血族以外の人を受取人に指定できる場合もあります、希望する場合は保険会社や代理店に問い合わせましょう。
たとえば、甥・姪などの3親等血族、事実婚(内縁関係)、同性パートナー、婚約者などを受取人に指定したいというニーズは近年特に高まってます。特に事実婚(内縁関係)や同性パートナーに関しては基準があるため、以下で解説します。
2-2-1.事実婚(内縁関係)
事実婚(内縁関係)とは、戸籍上の婚姻手続きをしていないものの、事実上夫婦である状態です。事実婚(内縁関係)として認められるには、以下の条件を満たしている必要があります。
- 夫婦どちらにも法律婚の配偶者がいない
- すでに一定の同居期間が経過している
- 一定期間生計を共にしている
ただし、保険会社によっても条件に違いがあります。事実婚(内縁関係)の配偶者を受取人にできるかは事前に確認が必要です。
2-2-2.同性パートナー
各自治体が発行しているパートナーシップ証明書の提出によって、同性のパートナーを生命保険の受取人に指定できるケースがあります。パートナーシップ証明書の発行条件や基準は自治体によって異なるため、事前に確認することが重要です。
2-3.複数人を指名することも可能
受取人として認められる人であれば、1人ではなく複数人を死亡保険金の受取人に指定しても問題ありません。また、それぞれの受取人の受取割合も自由に設定できます。例えば相続対策の意味合いで、子ども全員を同じ受取割合にして受取人として指定することも可能です。死亡保険金を複数の受取人が受け取った際は、受取人それぞれが納税義務を負います。
3.契約者・被保険者・受取人の関係と死亡保険金の税金
ここでは、契約者、被保険者、受取人の関係と死亡保険金の税金について解説します。
3-1.【所得税】契約者と受取人が同じ
契約者と受取人が同じ場合、所得税がかかります。契約者が払い込んだ保険料が保険金となって契約者に戻ってくる際に利益が出ていれば課税されるというイメージです。
死亡保険金を一時金として受け取れば一時所得、年金として受け取れば雑所得として扱われます。
以下に、一時金として受け取る場合の一時所得の計算方法を示します。
【参考】一時所得の計算方法
[一時所得の金額]=総収入金額 - 収入を得るために支出した金額 - 特別控除額(最高50万円)
上記で求めた金額の1/2が他の所得と合計され総合課税されます。
したがって、死亡保険金が一時所得となる場合(ほかに一時所得はない)の課税金額を求める計算式は以下のようになります。
(死亡保険金額 + 配当金
(※)
- 払込保険料の総額 - 特別控除) × 1/2
(※)保険金と一緒に受け取る配当金
年金形式で受け取る際の雑所得の課税金額は「 その年に受領した金額 - その金額に対応する払込保険料 」となります。
3-2.【相続税】契約者と被保険者が同じで受取人が別人
契約者と被保険者が同一人物で受取人が別人の場合、受け取った死亡保険金は相続税の課税対象になります。この場合、死亡保険金は被相続人のみなし相続財産と判断されます。ただし、受け取る保険金は遺産分割協議の対象にはならず、受取人固有の財産とみなされます。
なお、受取人が相続人の場合は、死亡保険金には相続税の非課税枠があります。
非課税枠(額)=500万円 × 法定相続人の人数
したがって、受け取った死亡保険金のうち、上記非課税枠を超えた金額が相続税の課税対象となります。
また相続税に関しては、死亡保険金の課税部分も加えた遺産総額に対して基礎控除があります。
基礎控除=3,000万円 +(法定相続人の人数 × 600万円 )
したがって、死亡保険金が非課税枠を超えない場合や、非課税枠を超えた死亡保険金を加えた遺産総額が基礎控除額を超えなければ、相続税はかからないということになります。
たとえば、契約者と被保険者が夫、法定相続人が妻と子どもの2人で、以下のようなケースは相続税がかかりません。
●夫(死亡)
●死亡保険金(受取人:妻) 3,000万円
●相続財産(保険金以外) 1,500万円
①死亡保険金の非課税枠
500万円 × 2人 = 1,000万円
②死亡保険金のうち課税対象となる金額
3,000万円 - 1,000万円 = 2,000万円
③遺産総額(①+②)
1,500万円 + 2,000万円=3,500万円
④相続税の基礎控除額
3,000万円 + (2人 × 600万円 )= 4,200万円
この場合、遺産総額(③)が基礎控除額(④)の4,200万円より少ないため、相続税はかかりません。
3-3.【贈与税】契約者・被保険者・受取人がすべて違う
契約者、被保険者、受取人がすべて異なる場合、死亡保険金は契約者から受取人への贈与とみなされ、受取人が贈与税を負担する必要があります。たとえば、契約者は父、被保険者は母、受取人は子どもとするケースが考えられます。
贈与税には 110万円の基礎控除 があり、死亡保険金から110万円を差し引いた額が課税対象です。死亡保険金4,500万円を受け取る場合、課税される金額は「 4,500万円 ー 110万円 = 4,390万円 」です。
この金額に対して、決められた税率で贈与税がかかります。
なお、受取人である子どもが18歳以上なら、契約者が父(直系尊属)であるこのケースには、特例贈与財産用の税率(特例税率)が適用されます。本来の贈与税率(一般税率)が55%のところ、特例税率の50%が適用されます。
※下表、贈与税の速算表参照
基礎控除後の金額が3,000万円超4,500万円未満の場合、特例贈与財産用の贈与税率は50%、控除額は415万円です。したがって、贈与税額は「 4,390万円 × 50% - 415万円 = 1,780万円 」です。
ちなみに、一般税率が適用される場合は、55%、控除額は400万円で、贈与税額は「 4,390万円 × 55% - 400万円 = 2,014.5万円 」となります。特例税率が適用されるほうが200万円以上税金が安くなります。
■贈与税の速算表(一般税率)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
■贈与税の速算表(特例税率)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
4.受取人の変更を検討すべきケース
生命保険の受取人は、状況によって変更が必要になることがあります。以下で具体的に解説します。
4-1.受取人が先に死亡したとき
被保険者よりも先に受取人が亡くなった場合、受取人を新たに指定する手続きが必要です。もし変更手続きを行わない場合、死亡した受取人の法定相続人が相続分に応じて保険金を受け取ることになります。
また、保険金受取人は遺言によっても変更することができます。この場合、法的に有効な遺言書を作成し、受取人を明記する必要があります。ただし、遺言書があっても保険会社にその旨を通知しなければ、変更前の元の保険金受取人の請求により保険金が支払われてしまいます。そうならないためには、遺言書を確認次第、早急に手続きを進める必要があります。
4-2.結婚したとき
結婚は、それまで加入していた保険について見直す最も重要なタイミングの1つです。結婚前に契約した生命保険がある場合、結婚のタイミングで受取人を配偶者に変更すべきか検討しましょう。
4-3.離婚したとき
自分が被保険者で配偶者を受取人にしていて離婚した場合、受取人の変更手続きをしなければ、元配偶者が死亡保険金を受け取ることになります。元配偶者ではなく、親や子どもなど他の親族に保険金を受け取ってもらいたい場合は受取人の変更手続きが必要です。
変更手続きをしない限り受け取りの権利が発生し続けるからです。
ただし、離婚後も死亡保険金を元配偶者に渡したいケースでは、手続きをする必要はありません。
5.死亡保険金の受取人の変更手順
ここでは、死亡保険金の受取人を変更するための一般的な手順を解説します。詳細については、各生命保険会社が示す手順を参考にしてください。
5-1.お客様サービスセンターなどへ連絡する
生命保険を契約している保険会社のお客様サービスセンターなどに連絡し、死亡保険金の受取人を変更したい旨を伝えましょう。連絡先はホームページなどで簡単に確認できます。受取人の変更について申し出ると、手続きや変更書類のお届けについて説明してもらえます。。
5-2.変更手続き用の書類を作成・用意する
死亡保険金の受取人を変更するには、書類の提出が必要です。保険会社から書類を受け取り、記入見本等にそって書類を作成しましょう。書類提出にあたっては、本人確認書類が必要となります。そのほかにも提出書類が必要な場合があります。提出書類は保険会社によって異なることがあるため、よく確認して提出しましょう。
5-3.変更手続き用の書類を提出する
提出する書類がすべてそろったら、保険会社指定の方法で提出します。
5-4.保険会社が提出書類を確認する
書類が保険会社に届くと、確認が行われます。確認にかかる期間は、保険会社によって違いがあります。
5-5.問題なければ手続きが完了する
保険会社の確認により提出書類に不備がないと判断されれば、受取人の変更手続きが完了します。変更した内容は、保険会社から送られてくる契約内容変更明細書で確認できます。また、WEB上のマイページでも確認が可能な場合があります。
なお、受取人変更手続きについても、WEBサイトのマイページから行える場合がります。
6.現在の保険金受取人の調べ方
生命保険の契約をしてから長い年月が経っている場合は、そもそも誰が死亡保険金の受取人になっているか忘れている場合もあるでしょう。受取人は生命保険の証券に記載されています。契約者であればお客様サービスセンターへの問い合わせで確認できますし、WEB上のマイページでも確認できるでしょう。
7.まとめ
生命保険の死亡保険金の受取人は、被保険者が死亡した際に保険金を受け取れます。配偶者や子どもなどを受取人に指定する場合が多いです。受取人によって税金のかかり方が変わるため、その点を考慮して指定してください。また、事情が変わって受取人の変更が必要になった際は、速やかに手続きを行いましょう。
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