生命保険では、あらかじめ死亡保険金の受取人が指定されており、被保険者が亡くなったら受取人が保険金の請求手続きをして死亡保険金を受け取ります。しかし、 被保険者より受取人のほうが先に亡くなってしまっていたときは、誰が保険金を受け取るのでしょうか?
その場合は 受取人の相続人が受け取る ことになります。また、その相続人もいないときは国庫に帰属することになります。
この記事では、これらの状況について事例をあげてわかりやすく説明するとともに、生命保険の受取人がいないときの対処法を紹介します。ぜひ参考にしていただき、保険金が予期せぬ人に支払われてしまわないようにお役立てください。
1.生命保険の受取人が先に死亡したら保険金はどうなる?
被保険者に子どもがいない場合など、生命保険の受取人を配偶者や親にしているケースがあると思います。その場合、 受取人のほうが被保険者よりも先に亡くなる可能性があることを考慮 しておきましょう。
1-1.受取人の法定相続人が死亡保険金を受け取る
受取人が先に亡くなった場合、 本来は受取人の変更手続きをしなければなりません が、変更をしていなかった場合は、 受取人の法定相続人が死亡保険金を受け取ります。 これは、法律(保険法第46条)で 「保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる」 と定められているためです。
つまり、受取人の変更手続きをしておかないと、死亡保険金を受け取ってほしい人以外にもお金が渡ってしまうことがあるということです。
1-2.法定相続人とは?
法定相続人とは、民法で定められた相続人のことです。法定相続人に該当するのは、配偶者と血族です。 配偶者は常に相続人になりますが、血族には優先順位があり、先順位の人がいる場合、後順位の人は相続人になることができません。
■法定相続人(血族)の順位
第1順位 | 子(死亡している場合は孫などの直系卑属が代襲相続) |
第2順位 | 父母(死亡している場合は祖父母などの直系尊属が相続) |
第3順位 | 兄弟姉妹(死亡している場合は甥・姪が代襲相続) |
生命保険の受取人が死亡している場合は、上記優先順位に基づき、受取人の配偶者(いる場合)+優先順位の高い血族が法定相続人として受取人になります。また、この場合で受取人が複数になったときは、 全受取人が死亡保険金を均等割で受け取ります。 遺産相続の分割では配偶者や優先順位により法定相続分に重みづけがありますが、保険金の受け取りは遺産分割とは異なります。
1-3. 事例で見る、受取人死亡時の保険金のゆくえ
それでは、事例を見ていきましょう。
事例1 子どものいない夫婦 (本人が母を受取人として生命保険に加入していたケース)
被保険者(および契約者):本人
受取人:母(先に死亡)
死亡保険金:1,000万円
事例1を図にすると
本人が結婚前に母を受取人として加入。結婚した後も、さらに母が死亡したときも受取人の変更をしていませんでした。夫婦に子どもはなく、本人には兄が1人います。
この場合、受取人は母の法定相続人である本人と兄になりますが、本人も死亡しているので、本人の権利はその法定相続人である配偶者に移ります。したがって、 配偶者、兄の2人が受取人となり、死亡保険金を500万円ずつ受け取ります。
仮に、本人が配偶者に死亡保険金を残したいと思っていたとしても、保険金受取人を母から配偶者に変更をしていなかったために、兄も母の法定相続人として死亡保険金を受け取ることができるのです。このようなことにならないためには、 適宜、受取人の変更を行うことが大切 です。
※この事例は、保険法の条文や過去の判例に基づく一般的な法解釈により作成しています。保険会社や弁護士、学説などにより見解が異なる可能性もあります。また約款に規定がある場合は、その規定が優先されます。
2.受取人の法定相続人もいないときは?
次に、生命保険の受取人が死亡していて、その法定相続人もいない場合をみてみましょう。
たとえば、一人暮らしの高齢者で、受取人である配偶者はすでに亡くなっており、ほかに身寄りがない場合などがあてはまります。
受取人の法定相続人がいない場合は、亡くなった人の財産は最終的に 国庫に帰属 します。裁判所が選定した相続財産管理人が、亡くなった人の財産を整理したのち、国庫に入れる手続きが執られます。
事例2 子どものいない夫婦 (本人が配偶者を受取人として生命保険に加入していたケース)
被保険者(および契約者):本人
受取人:配偶者(先に死亡)
死亡保険金:1,000万円
事例2を図にすると
本人が配偶者を受取人として生命保険に加入し、先に受取人である配偶者が亡くなりました。本人の父母はすでに死亡し兄弟姉妹はいません。また、配偶者の父母・妹もすでに亡くなっています。したがって、受取人である配偶者、被保険者(および契約者)である本人ともに生存している法定相続人はいません。
このケースでは、本人が亡くなると死亡保険金を受け取れる人がいなくなります。このようなときは、死亡保険金は本人の相続財産とともに国庫に帰属することになります。
3.受取人が亡くなったときは変更手続きを忘れずに!
生命保険の受取人が先に亡くなった場合は、すみやかに 受取人の変更手続き をおこなってください。うっかり忘れてしまうと、受取人の法定相続人が死亡保険金を受け取ることとなり、 本来受け取ってほしい人以外にも死亡保険金が渡ってしまいます。 親族間のもめごとに発展するおそれがあるので、注意が必要です。
それでは最後に、保険金受取人の変更するにあたって、どの範囲の人を受取人にできるのか確認しておきましょう。
3-1. 生命保険の受取人になれるのは近親者
受取人は誰でもよいわけではなく、
保険会社が指定する範囲の親族
でなければなりません。
基本的には2親等以内の血縁者とする保険会社が多いのですが、3親等内の親族(おじ:おば、甥・姪、曽祖父母など)まで受取人に指定できる場合もあります。一般的には、子や配偶者を受取人にすることが多いのですが、被保険者を受取人にすることも可能です。
■保険金受取人に指定できる人の範囲
3-2.事実婚や同性のパートナーは受取人になれる?
生命保険の受取人になれる人は前節の範囲が基本ですが、事実婚や同性のパートナーなども受取人になれる場合があります。
3-2-1. 事実婚(内縁関係)や婚約者の場合
保険会社によっては、事実婚(内縁関係)、婚約者も、一定の基準を満たせば受取人になれます。
3-2-2.同性パートナーの場合
保険会社によっては、同性パートナーも、一定の基準を満たせば受取人になれます。
5.まとめ:受取人が亡くなった場合のことも考えて加入を
生命保険の受取人が死亡したときは、すみやかに受取人変更手続きをおこないましょう。 手続きを忘れてしまうと、受取人の法定相続人が死亡保険金を受け取ることになり、親族間のもめごとになりかねません。保険に加入する場合は受取人を誰にするかだけでなく、受取人が亡くなったときにも、どうするかを考える必要があることを覚えておきましょう。