生命保険にリビングニーズ特約がついていれば、余命6ヵ月以内と判断された場合、生きているうちに保険金を受け取ることができます。受け取った保険金で、最大限の治療を受けることもできますし、残された時間を家族とともに過ごすために使うこともできます。
そんな リビングニーズ特約は、生命保険に無料でつけることができる のですが、あなたはこのことをご存じでしたか?
余命宣告という、あまり考えたくない未来のことにはなりますが、リビングニーズ特約とそのメリット・デメリットを正しく理解して活用すると、万一のときに最後の生き方がぜんぜん違ったものになってくると思います。
1. リビングニーズ特約とは?
リビングニーズ特約とは生命保険につけられる特約で、余命6ヵ月以内と判断された場合に、前もって保険金を受け取ることができる特約です。
現在、生命保険に加入していてリビングニーズ特約をつけていないという人も、あとからつけることができます。メリットのある特約なので、ぜひ検討してみてください。
1-1. 無料でつけられて、3,000万円まで請求できる
リビングニーズ特約は保障を追加するわけではなく、死亡保険金の一部を前払いするような特約なので、特約保険料は必要なく 無料 でつけられます。
そして余命6ヵ月以内となったときには、契約している死亡保障(保険金)の範囲内で自分が必要な金額を請求することができます。ただし、 請求できる金額は被保険者一人につき3,000万円以内 ということになります。
1-2. 受け取ったお金は自由に使える!
受け取ったお金は、治療やケアのために使うことが主な目的となると思いますが、体の自由がきく状況であれば家族で旅行に行くために使ってもかまいません。 使い道に特に制限はありません。 また画期的な治療効果により 6ヵ月を過ぎて生きていたとしても、返金を求められることはありません。
余命6ヵ月ということは、一般的な治療では延命できないという状況です。それでもなんとか生きるための治療を行おうとしたら、先進医療を受けるとか、健康保険適用外の最新の治療を試すために自由診療を受けるなどの選択肢が必要となるかもしれません。そうなると治療費が高額になってきます。仮にがんの治療だとして、かつ、がん保険に入っていたとしても、健康保険適用外の治療(自由診療)を受ける場合は、ほとんどのがん保険で保障の対象外となり給付を受けることができません。したがって、 3,000万円まで請求できて自由診療にも使えるリビングニーズ特約は、闘病のためにはとても有益 な特約だといえます。
1-3.受け取ったお金には税金もかからない!
受け取ったお金には税金がかかりません。 これは、病気やけがなどで余命6ヵ月ということが理由で支払われた保険金だからです。治療のための医療保険の給付金が非課税なのと同様です。
ただし、 受け取ったお金が死亡したときに余っていたら、その分は相続財産として相続税の対象 となります。ちなみに、リビングニーズ特約ではなく、死亡したときに相続人が死亡保険金を受け取った場合は相続税の非課税枠がありますが、 リビングニーズ特約で受け取って余ったお金にはこの非課税枠の適用はありません 。
1-4. リビングニーズ特約を使ったら元の保険はどうなる?
リビングニーズ特約を使って保険金を受け取ると、もともと契約していた保険金額からリビングニーズ特約で請求した金額が減額されます。リビングニーズ特約を申請したからといって、全ての保険がなくなってしまう訳ではありませんのでご安心ください。
たとえば、5,000万円の生命保険に入っていて、余命6ヵ月となりリビングニーズ特約で3,000万円請求したとします。この場合、請求した保険金が支払われると、生命保険の残りは2,000万円(5,000万円-3,000万円)となります。したがって、それ以降は残った2,000万円分の生命保険料を支払うことになります。
ただし、もともと契約している保険金が3,000万円以下の場合で、その全額をリビングニーズ特約で請求した場合は、生命保険がすべて消滅することになります。
一方、リビングニーズ特約自体は保険金を受け取ると特約が消滅します。つまり リビングニーズ特約を利用できるのは1契約について1回だけ となります。はじめに2,000万円請求して、あとから残りの1,000万円を請求するということはできません。
最後に補足となりますが、リビングニーズ特約で3,000万円を請求した場合、実際に受け取れるのは3,000万円ではありません。それはこの保険金が死亡保険金の前払いという性格があるからです。
3,000万円を請求すると、死亡するのは6ヵ月後という計算から、(3,000万円に対する)6ヵ月間の利息と保険料を差し引いた金額が支払われることになります。
1-5. 医師の診断だけでは支払われない
リビングニーズ特約は余命6ヵ月以内となったときに請求できる特約ですが、その支払いの判断は生命保険会社にあります。生命保険会社は、医師の診断書や請求書類に基づいて支払うかどうかを判断することになります。つまり、場合によっては診断書があっても支払えないという判断が出る可能性もあるということです。
これは、余命6ヵ月以内という意味が、日本で一般に認められた医療による治療を行っても余命が6ヵ月以内と判断されるということだからです。
たとえば、治療を望んでいないとか、特殊な民間療法を受けていて通常の治療を行っていないというような理由で余命が6ヵ月以内の場合は、生命保険会社からは余命6ヵ月以内と認めてもらえないということになるかもしれません。
1-6. リビングニーズ特約をつけられるのは生命保険(死亡保障)
ここまで説明してきたように、リビングニーズ特約は死亡保険金を前払いするようなしくみです。したがって、この特約をつけられるのは死亡保障のある保険、いわゆる生命保険ということになります。他の保険でも死亡保障が特約でついていたら、その特約にリビングニーズ特約をつけられる場合もあります。
生命保険であれば、終身保険、定期保険、収入保障保険、養老保険などたいていの保険につけることができます 。保険によっては自動的に付加される場合もあります。
もしあなたが生命保険に入っていて、リビングニーズ特約をつけていないのなら、あなたの保険にリビングニーズ特約をつけることができるか確認してみましょう。契約のしおりや約款を見るか、よくわからない場合は、生命保険会社や保険代理店に聞いてみるとよいでしょう。
2. 本人以外でもリビングニーズ特約で保険金を請求できる
リビングニーズ特約で保険金を受け取るのは、余命6ヵ月となっている本人(被保険者)となります。
ところが、本人の症状が重くて意識不明であったり、本人には余命告知をしていなかったりすると、たとえ治療費のために保険金が必要な状況であっても、本人が請求したり受け取ることは難しくなります。そのようなときに家族が代わって保険金を請求できる方法があります。それが指定代理請求制度です。
ちなみに、 リビングニーズ特約で受け取る保険金は、指定代理請求人が請求した場合でも、本人が請求したときと同様に非課税 となります。
本人以外が請求したいケース
- 本人には余命6ヵ月以内の告知をしておらず、知られないまま保険金を請求したい
- 植物状態(余命6ヵ月以内)であるため、本人がリビングニーズ特約を請求することができない
- 本人(余命6ヵ月以内)が認知症で、リビングニーズ特約を使う意思表示をすることが困難である
2-1. 指定代理請求制度
被保険者が受取人となる保険金・給付金等を、 被保険者本人が請求できない特別な事情があるときに、あらかじめ決めておいた指定代理請求人が本人に代わって請求できる 制度です。
この制度により指定代理請求人が保険金を請求できるようにするには、指定代理請求特約を付加して、指定代理請求人を指定します。指定代理請求人になれるのは、被保険者の戸籍上の配偶者、直系血族または3親等内の血族、同居または生計を一にしている3親等内の親族等となります。
2-2. 本人に余命を知られずに受け取れる?
本人に余命宣告をしていなくても、家族がリビングニーズ特約を利用して保険金を受け取ることはできますが、その場合に生命保険会社からの連絡等で本人にリビングニーズ特約を利用したこと(余命6ヵ月以内であること)が知られてしまうことはないのでしょうか?
基本的には、 生命保険会社がリビングニーズ特約を利用した旨を本人に連絡することはありません。 したがって、直ちに本人にばれてしまうことはないでしょう。
しかし、次のようなケースでばれてしまう可能性はあります。
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保険金額・保険料が減っていることに気がつく
リビングニーズ特約を使うと保険金額が減り、その後の保険料も安くなります。たとえば、保険料を銀行口座からの引き落としにしていて、本人が通帳の明細を目にしてそのことに気がつき、リビングニーズ特約の利用(余命6ヵ月以内)を疑うことがあるかもしれません。 -
本人が生命保険会社に確認してわかる
家族が内緒にしていても、本人が雰囲気の変化を敏感に感じとることがあるかもしれません。その場合に、本人が生命保険会社に契約内容について直接問い合わせをしたら、保険会社としては回答せざるをえないのではないでしょうか。
3. リビングニーズ特約のメリット
これまでみてきたことからメリットをまとめると、以下のようになります。
リビングニーズ特約のメリット
- まとまったお金で十分な治療が受けられる
- 治療以外に(有意義に)使ってもよい
- 受け取った保険金は非課税である
- 家族が代わって請求できる(指定代理請求特約)
- 6ヵ月以上生きていても返さなくてよい
- 特約保険料は無料である
4. リビングニーズ特約のデメリット
これまでみてきたことからデメリットをまとめると、以下のようになります。
リビングニーズ特約のデメリット
- 受け取って余ったお金は相続税の対象になる(死亡保険金に対する相続税の非課税枠は適用されない)
- 代理請求がきっかけで余命がばれてしまう可能性もある
5. リビングニーズ特約は途中からでもつけられる
あなたが以前から生命保険に入っていて、その保険にリビングニーズ特約がついていないなら、今からでもつけることをおすすめします。たいていの生命保険はリビングニーズ特約が付加できるはずですが、念のためリビングニーズ特約をつけられるかをまずは確認しましょう。
また、 リビングニーズ特約とともに指定代理請求特約もあわせて付加することを忘れないように しましょう。
これらの特約をつけるためには、担当の営業員に連絡するか、担当がわからない場合は直接保険会社に連絡すると担当者を紹介してくれます。ここで注意しておきたいのが、こちらがリビングニーズ特約をつけたいだけだとしても、保険会社や営業員によっては見直しの提案をしてくるかもしれないということです。もちろん必要な見直しやよい提案であればあわせて検討すべきですが、不要な提案などを受けた場合は、今回はリビングニーズ特約を付加するだけで保険を変更する気はないことをはっきりと意思表示しましょう。
6. おまけ:法人契約の場合
一般の個人には関係ありませんが、企業が法人契約で生命保険に入っている場合にリビングニーズ特約はどうなるでしょうか?
法人契約の生命保険についてのリビングニーズ特約の取り扱いは、生命保険会社によって対応が違っています。そもそもリビングニーズ特約を付加できない保険会社もあります。付加できる場合でも、 リビングニーズ特約の保険金の受取人が法人となるように決まっていることがあり、その場合は個人のケースと違って受け取った保険金が益金となる可能性があります。 ご注意ください。
7. まとめ:あって損のない特約
リビングニーズ特約は、余命6ヵ月以内となったときに、保険金を前払いのような形で受け取れる特約です。治療のためなど、残った人生をよりよく生きるために保険金を使うことができ、無料でつけられるというメリットの多い特約です。
さらにいうと、余命6ヵ月以内になったとしても、この特約を使うかどうかは自分(場合によっては家族)で判断することができます。したがって、リビングニーズ特約をつけていて損をするということは基本的にはありません。つけられるならつけておいたほうがよいでしょう。