厚生労働省が定める
先進医療のなかで特に高額な費用が必要となるのが、がんの粒子線治療(重粒子線治療と陽子線治療)
です。先進医療特約への加入も、この治療を視野に入れてのことが多いのではないでしょうか。
しかし、
2016年4月に一部のがんへの治療において健康保険が適用されるようになり、その後も徐々に保険適用の範囲が拡大
してきています。
粒子線治療は、特定のがんの治療法として高い効果が期待されており、一部とはいえ先進医療から健康保険適用に移行したことは、うれしいニュースといえるでしょう。
ここからは、どんながんのときに重粒子線治療・陽子線治療を健康保険(公的医療保険)で受けられるのか、そして、そもそもどんな治療法であるのかをわかりやすく説明いたします。ぜひ参考にしてください。
1.健康保険適用となった重粒子線治療、陽子線治療
先進医療であった陽子線治療と重粒子線治療について、2016年4月、それぞれ一部のがんに対する治療が健康保険の適用となりました。その後も少しずつ拡大してきて、2024年6月時点では、以下のような治療が保険適用となっています。
治療 | 適用される病気 |
重粒子線治療 | 骨軟部肉腫(手術が困難なもの) |
頭頸部腫瘍(鼻・副鼻腔・唾液腺等、涙腺がん) | |
早期肺がん(Ⅰ-ⅡA期) | |
肝細胞臓がん(長径4cm以上のもの) | |
肝内胆管がん | |
局所進行性膵臓がん | |
前立腺がん | |
子宮頸部腺がん | |
子宮頸部扁平上皮がん(長径6cm以上のもの) | |
大腸がん(術後骨盤内再発) | |
婦人科領域の悪性黒色腫 | |
陽子線治療 | 小児がん(限局性の固形悪性腫瘍) |
骨軟部肉腫(手術が困難なもの) | |
頭頸部がん(鼻・副鼻腔・唾液腺等、涙腺がん) | |
早期肺がん(Ⅰ-ⅡA期) | |
肝細胞臓がん(長径4cm以上のもの) | |
肝内胆管がん | |
局所進行性膵臓がん | |
前立腺がん | |
大腸がん(術後骨盤内再発) |
(出典)一般社団法人粒子線治療推進研究会WEBサイトより
2.健康保険適用で自己負担が200万円も安くなる!
先進医療による治療は、たとえ適用が認められた場合でも健康保険がきかないため、治療費は全額自己負担となります。特に重粒子線治療と陽子線治療は、数ある先進医療のなかでも高額な治療法で、 重粒子線治療は約300万円、陽子線治療は約280万円 の自己負担が必要です。
このため、これらの治療に 健康保険がきくようになると、自己負担額は3割ですむようになり、重粒子線治療は約90万円、陽子線治療は約84万円で受けられる ようになります。
これでも高額な治療に変わりありませんが、自己負担額が200万円も少なくてすむのは大きなメリットですし、もし、金額の問題でこの治療をあきらめなければならないケースがあったとしたら、健康保険適用により治療の幅が広がることにつながるでしょう。
治療 | 治療費 | 3割負担分 |
重粒子線治療 | 約300万円 | 約90万円 |
陽子線治療 | 約280万円 | 約84万円 |
ちなみに、 がん保険や医療保険に先進医療特約をつけておけば、先進医療として治療を受けた場合に医療費が保障されます 。
3.粒子線治療とは?
重粒子線治療や陽子線治療などの粒子線治療とは、放射線治療の一種です。
通常の放射線治療では、X線やガンマ線などの放射線を治療に使いますが、
重粒子線治療では炭素イオンを、陽子線治療では陽子(水素原子から電子を取り去ったもの)を病巣に照射
します。
炭素イオンや陽子などというと、説明を聞くのも嫌になってしまいそうですが、簡単に言うと、通常の放射線よりもパワーがあってがん細胞を攻撃する力が強い放射線です。しかも、がん細胞以外の正常な細胞へのダメージが少ないという特徴があります。
がんは体の内部にできますので、放射線をがん細胞に照射するときは、放射線はまず体の表面の皮膚にあたり、そこを通過してがん細胞にあたり、さらにがん細胞の裏側に抜けていきます。
通常の放射線は、がん細胞に届く前にパワーのピークがあるため、がん細胞に届く前の正常細胞へのダメージが大きくなってしまいがちです。しかし、重粒子線や陽子線は、正常細胞を通過した後、がん細胞に届くときにパワーのピークをあわせることができ、しかもがん細胞通過後は、再びパワーが小さくなるという特徴があります。
したがって、 通常の放射線に比べると、ピンポイントでがん細胞に対して大きなダメージを与えることができ、正常細胞への影響を少なくおさえることができます 。つまり、がんの治療効果が高く、体への負担(副作用など)も少ないということになるそうです。
粒子線治療のメリット
- 副作用が少ない
- 通院治療が可能
- 通常の放射線で治療しにくいがんへも適用できる
- 治療期間が短い(がん細胞への殺傷能力が高いので)
ただし、粒子線治療の対象となるには以下のような条件があります。
■粒子線治療適用の条件
- 他の臓器に転移がなく、狭い範囲にとどまっている固形のがん
- 対象のがんに対して、過去に放射線治療を受けていない
また粒子線治療は、重粒子線や陽子線を発生させるために加速器という大型の施設が必要で、治療できる施設が限られたり治療費が高くなったりすることがデメリットとなります。さらにいうと、 先進医療が適用と判断される条件は厳しく、実際に治療を受けられるケースは少ない という現状もあります。
4.先進医療とは?
次に、粒子線治療が該当している先進医療について簡単に説明します。
先進医療とは、新しい治療法などで、将来、健康保険の適用にするかどうかを判断する段階にあるもので、一般の保険診療と併用して受けることができると認められているもの です。
日本では、原則、保険診療と保険のきかない自由診療を併用すること(いわゆる混合診療)はできず、自由診療を受けたときは、保険診療に該当する治療も全額自己負担となりますが、先進医療はその例外として併用することができます。
<先進医療> ※厚生労働省WEBサイトより抜粋
厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養として、厚生労働大臣が定める「評価療養」の1つとされています。 具体的には、有効性及び安全性を確保する観点から、医療技術ごとに一定の施設基準を設定し、施設基準に該当する保険医療機関は届出により保険診療との併用ができることとしたものです。
つまり、今後、健康保険の適用範囲に含めるかどうか、その効果をテストしている治療法なので、 治療効果が認められれば健康保険適用になる可能性がある ということです。
令和6年11月1日現在、先進医療は76種類(先進医療A 26種類、先進医療B 50種類)ありますが、今後あらたに先進医療に含まれてくるものもあれば、先進医療から外れていくものもあり、その数は常に変わっていきます。
また、テスト中ということについて逆の見方をすれば、確実に治療効果があると認められている治療法ではないともいえます。
先進医療というと、夢の治療法といったイメージを抱きがちですが、先進医療を受けたらからといって、治療困難な病気が確実に治るとは限りませんし、粒子線治療などでも、症例によっては通常の放射線治療や外科手術、化学療法などの方が適しているということもありえます。その点は理解しておいたほうがよいでしょう。
先進医療の種類については以下の厚労省のサイトで確認できます。
・
先進医療の各技術の概要(厚労省)
5.先進医療のための保険(先進医療特約)
医療保険やがん保険には先進医療特約があります。今回説明した重粒子線治療や陽子線治療は、治療費が300万円にもおよぶ治療法なので、このような特約で備えておくことは有効といえるでしょう。
保険会社や保険商品によって違いはありますが、 先進医療特約の月額保険料は100円程度 なので、わずかな負担で万一に備えられます。
ただし、これまで説明してきたように、先進医療として認定されている治療法は常に変わっていきますので、将来も重粒子線治療や陽子線治療が先進医療であり続けるかどうかは何の保証もないということは知っておきましょう。
とはいえ、先進医療特約は決して意味がないわけではなく、粒子線治療がまだまだ先進医療である現段階では、十分に検討に値する保障です。
6.まとめ:今後も先進医療からの保険適用に期待!
2016年4月に小児腫瘍(がん)や切除が困難な骨軟部腫瘍について、健康保険で粒子線治療を受けられるようになったのをはじめに、健康保険適用の粒子線治療が少しずつ拡大してきています。これらの病気の方、今後そう診断される方は、治療の候補として検討してみるとよいでしょう。
また先進医療は、健康保険の適用範囲に含むかどうかを判断している治療法です。粒子線治療に限らず、その他の治療法についても今後保険適用に変更されることがないかなど、ニュース報道などにも気を配っておくとよいでしょう。
※本記事は2024年11月時点の情報をもとに作成しています。