がん保険の保障の説明には、上皮内新生物とか悪性新生物という言葉が出てきます。「悪性新生物=がん」というのは間違いありませんが、では、上皮内新生物とは何なのでしょうか?
上皮内新生物は、ひらたく言えば、がんの卵のようなものです。周囲の組織に広がったり他の組織に転移したりという一般的ながんの特徴をまだ持ち合わせていません。だから、きちんと治療すれば治りますし、通常は、無理にがん保険で備えていなくても医療費はそれほど高額にはなりません( ただし、女性については少し事情が違います )。
ここでは、そんな上皮内新生物について、どのようなものであるのかをわかりやすく説明するとともに、治療費や男女で違う上皮内新生物に対する保険での備え方についても解説していきます。上皮内新生物とがん保険の保障についての正しい知識を身につけて、こんなはずではなかったという失敗を防ぎましょう。 特に女性の方は必読です!
1. 上皮内新生物とは初期のがん? がんではない?
上皮内新生物とは、粘膜の上部である上皮の中に発生した腫瘍(がん細胞)が、上皮内にとどまっている状態のものを指します。
がん保険においては、上皮内新生物か悪性新生物(がん)かによって保障に差が出てきますので、上皮内新生物がどのようなものであるのか、悪性新生物との比較でみてみましょう。
1-1. 上皮内新生物と悪性新生物(がん)の違い
上皮内新生物と悪性新生物は、どちらもいわゆる「がん細胞」ができている状態ではありますが、はっきりと区別されています。腫瘍(がん細胞)が上皮内にとどまっているのが上皮内新生物、上皮の範囲を越えて粘膜の奥まで進むと(浸潤すると)悪性新生物となります。
それでは、どこまで進むと悪性新生物になるのか、その違いについて図を使ってわかりやすく説明しましょう。
1-1-1.子宮頸部の場合の違い
まず、子宮頸部の場合の図をご覧ください。腫瘍が上皮内にとどまっている上皮内新生物の状態から基底膜を越えて粘膜の深くまで広がることを浸潤といい、浸潤すると悪性新生物となります。
腫瘍が周囲に広がっていく浸潤や他の組織へ移動して増える転移があることが悪性新生物の特徴なので、周囲への広がりがない上皮内新生物はその特徴がないということで悪性新生物と区別されています。
1-1-2.大腸の場合の違い
上皮内新生物と悪性新生物とを分ける浸潤状態ですが、大腸の場合は少し違っていて、粘膜層までにとどまっている状態が上皮内新生物で、粘膜筋板を越えて粘膜下層に達すると悪性新生物となります。
医学用語が出てきて難しい印象ですが、上皮内新生物はまだ周囲への広がりがない状態、イメージとしては「 がんの卵 」のようなものととらえるとよいでしょう。将来、卵がかえればがんになりますが、卵のうちはすぐに生命をおびやかすような危険性は低いといえるでしょう。
1-2. 具体的にはこんな病気
上皮内新生物は、皮膚や臓器の表面を覆っている上皮にできる腫瘍で、発生場所によりいろいろな種類がありますが、具体的には以下のような病気が該当します。
上皮内新生物の具体例
- 大腸の粘膜内がん
- 子宮頸部の上皮内がん、高度異形性など
- 乳腺の非浸潤性乳管がん
- 皮膚のボーエン病
など
2. 上皮内新生物の治療
上皮内新生物は、いわゆる「がん」になる前の状態ということはわかりました。しかしがん細胞であることには変わりありません。どんな治療になるのでしょうか?
2-1. きちんと治療(切除)すれば治る
上皮内新生物は上皮の外に浸潤しておらず他の組織への転移もありません。そのため、上皮内新生物の段階で切除すれば根治が可能といわれています。
先ほど「がんの卵」という表現をしましたが、卵のうちならきれいに取り除きやすいということです。
2-2. 上皮内新生物の治療費
上皮内新生物は、基本的には腫瘍を切除すれば治療は終わります。がんのように、手術した後にも引き続き抗がん剤治療をするなどといったことは原則必要ありません。
つまり、がんに進行する可能性のある腫瘍とはいえ、通常はその治療は良性の腫瘍と同様です。
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大腸の粘膜内がん
[日帰り:約2~3万円、入院:約15~17万円]
大腸内視鏡による日帰り手術の場合で、3割の自己負担額が約2~3万円となっています。1週間程度の手術が必要な内視鏡手術の場合は、約15~17万円です。 -
子宮頸部の上皮内がん、高度異形性等
[約5万円]
子宮頸部切除術という手術の費用は、3割の自己負担額で約5万円程度となっています。 -
乳腺の非浸潤性乳管がん
[約20~30万円]
乳房を温存するか、切除するかなど手術方法によっても差がありますが、手術費用は3割の自己負担額で約20~30万円くらいとなります。
通常、上皮内新生物は小さな腫瘍ですが、非浸潤性乳管がんの場合は乳管にそって広がっていることがあります。そのような場合は、 乳房を全摘出しなければならないことがあり 、そうなると上皮内新生物の治療に加え、乳房再建術などを受けることになる可能性もあります。また、他の上皮内新生物は切除手術だけですみますが、非浸潤性乳管がんの場合は、 放射線治療やホルモン剤治療などの併用が必要な場合があります。
3. 上皮内新生物に備えられる保険とおさえておきたいポイント
上皮内新生物に備えられる保険としては、一般的な医療保険とがん保険があります。
3-1. 医療保険は入院や手術に応じて支払われる
医療保険は、上皮内新生物の手術に対して手術給付金が支払われます。そして、その手術が入院をともなう場合は入院日数に応じて入院給付金が支払われます。
3-2. がん保険は商品によって対応が違う
がん保険は、商品によって上皮内新生物への保障があるものとないものがあります。最近のがん保険では、上皮内新生物に対して何らかの保障があるものが多いですが、古いがん保険では全く保障がないものがあります。
また、上皮内新生物への保障があるがん保険でも、商品によっては悪性新生物と同様の保障があるものと、保障が限定されたものがあります。保障の限定のされ方としては、診断給付金などが 50 %や 10 %程度に抑えられたり、初回診断時のみ保障されたりするものなどがあります。
3-3. がん保険により上皮内新生物の扱いが分かれる理由
上皮内新生物でも悪性新生物と全く同様に保障されるがん保険がある一方、多くのがん保険では保障額に制限がついていたり、古いがん保険では保障がなかったりします。
なぜ、そのようなことになっているかというと、上皮内新生物は基本的に良性の腫瘍の治療と同じですむからです。いわゆる「がん」のように治療が長期化したり再発や転移に備えたりといったことを考慮しなくてよく、がん同様の保障は必要ないだろうという判断がベースにあります。
しかし、上皮内新生物も保障しますよと言うほうが他社との差別化になるため、最近は上皮内新生物を保障している保険会社が増えてきました。ただし、保障範囲を広げると保険料が高くなってしまいますので、上皮内新生物の保障額を低めに設定する保険会社もあります。その結果、がん保険は商品によって上皮内新生物の扱いが違ってしまっているのです。
4. 女性は要注意!上皮内新生物に備える保険の考え方
3 章で説明したように、上皮内新生物の治療は、原則的には良性の腫瘍と同様であり、がん保険でなく一般の医療保険でも十分に備えることができます。
ただし、女性の非浸潤性乳がんの場合は例外となるので、 女性の方は保険の選び方が重要 です。もし抗がん剤治療やホルモン剤治療を長期間にわたって続けなければならなくなると、トータルの医療費自己負担額はかなりの金額になる可能性があります。
そのようなリスクを想定すると、 女性の場合はできれば上皮内新生物も十分に保障されるがん保険に入っておいた方がよい といえるでしょう。
5. まとめ:女性は上皮内新生物への備えが大切だが、男性はあまり気にしなくてよい
上皮内新生物は、将来がんに進行する可能性がある腫瘍です。しかし、浸潤や転移がないため、治療は良性腫瘍を切除するのと変わりありません。そういった意味では、無理にがん保険で備えなければならないような病気とはいえません。
ただし、 女性の場合は、非浸潤性乳がんのことを考えると上皮内新生物でもしっかりとした保障があるがん保険に入っておいた方が安心 といえます。一方、男性の場合は、がん保険を検討するときにも、上皮内新生物の保障の有無などをあまり気にしすぎる必要はないでしょう。