高度障害とはどのような状態をさすのでしょうか?
大きな障害を負ってしまったときに、もしそれが 高度障害に該当すれば、生命保険の高度障害保険金を受け取ることができます 。ただし、加入者側から請求しなければなりません。だから、高度障害がどのような状態か知っておくことはとても重要です。
ところが、いざ高度障害に該当するかどうか調べようとすると、保険の約款の説明は専門的で難しいためわかりにくいというのが現状です。もっとわかりやすい情報を調べようとしても、まとまった情報はあまり見当たりません。
ここでは、そのような方のために、生命保険の約款にある高度障害状態をできるだけわかりやすく解説しています。この記事を読むだけで、どんな状態なら高度障害保険金が受け取れるのか、概要が一通りわかるようになっていますので、ぜひお役立てください。
高度障害とは?
高度障害とは、病気やけがにより身体の一定の機能が重度に低下している状態をいいます。
生命保険に関連して使われる言葉で、生命保険に加入している人(被保険者)が高度障害状態になると、 死亡保険金と同額の高度障害保険金 が支払われます。
高度障害は、死亡保険金の代わりに高度障害保険金が出る状態であり、保険契約上は死亡するのと同じくらい重大な状態といえます。そのため、高度障害がどのような状態かという基準は生命保険会社が定めています。 身体障害者福祉法等に定められている障害状態等とは異なります のでご注意ください。
具体的にはどのような状態か?
生命保険会社が定めている高度障害状態とは、以下の7つの状態です。
(1) 両眼の視力を全く永久に失ったもの
高度障害のなかでも、内容がわかりやすい項目です。簡単にいえば両眼とも見えなくなってしまった状態です。ただし、見えないといっても全盲という訳ではなく、
矯正視力が両眼とも0.02以下で回復の見込みがない状態
です。
なお、視野狭窄(視野の一部が欠ける状態)や眼瞼下垂(上まぶたが下がって目が閉じる状態)による視力障害は対象外となります。
(2) 言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
「言語を失う」
というのは、しゃべれなくなった状態です。
以下のような状態になり、言葉で自分の意思を伝えることができなくて回復の見込みがない状態が該当します。
■口唇音、歯舌音、口蓋音、喉頭音のうち3種類以上の発音ができない(語音構成機能障害)
- 口唇音(こうしんおん)=ま行音、ぱ行音、ば行音、わ行音、ふ
- 歯舌音(しぜつおん)=な行音、た行音、だ行音、ら行音、さ行音、しゅ、し、ざ行音、じゅ
- 口蓋音(こうがいおん)=か行音、が行音、や行音、ひ、にゅ、ぎゅ、ん
- 喉頭音(こうとうおん)=は行音
■頭の中で言葉を理解し、自分で言葉を作り出すことができない(中枢性失語症)
■声帯がなくてしゃべれない(声帯全部摘出)
また 「そしゃく機能を失う」 とは、口の中で食物をかみ砕いて唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい状態にすることができなくて、液体やおも湯しか飲み込めない状態になることです。
(3) 中枢神経系、精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
中枢神経、精神、胸腹部臓器の障害により、 以下のすべてにあてはまる状態 が該当します。
- 箸、スプーン、フォークなどの食器を使用しても、自力で食物を口まで運ぶことができない
- 洋式便器を利用しての大小便の排泄が自分でできない
- 大小便を排泄した後に、身体の汚れた部分を自力でぬぐうことができない
- Tシャツやトレーナーなどのボタンやチャックがない衣服を自力で着たり脱いだりできない
- 横になった状態から、自分で起き上がって座った姿勢を保つことができない
- 他人のサポートがないと自分で歩けない(杖や手すりを使えば歩ける場合を除く)
- 自力で浴槽に入ったり出たりすることができない(手すりを使えば入ったり出たりできる場合を除く)
上記のうち、一つでも自分でできる場合は高度障害と認められません。
(4) 両上肢とも、手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
両腕が以下の状態にあてはまる場合が該当します。
- 手首以上の場所で切断している
- 両腕が全く動かせない、両腕の各関節が完全に麻痺して自力で動かせない
- 肩、肘、手首の各関節すべてが完全に固まって動かせないか、可動範囲が通常の運動範囲の1/10以下となり回復の見込みがない
(5) 両下肢とも、足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
両脚が以下の状態にあてはまる場合が該当します。
- 両脚を足首以上で切断している
- 両脚が全く動かせない、両脚の各関節が完全に麻痺して自力で動かせない
- 股、膝、足首の各関節すべてが完全に固まって動かせないか、可動範囲が通常の運動範囲の1/10以下となり回復の見込みがない
(6) 1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
片腕と片脚について、以下のような状態にあてはまる場合が該当します。
- 片腕を手首以上で切断し、片脚を足首以上で切断している
- 片腕を手首以上で切断し、片脚が全く動かせないまたは片脚の関節が完全に麻痺して自力で動かせない
- 片腕を手首以上で切断し、片脚の関節すべてが完全に固まって動かせないか、可動範囲が通常の運動範囲の1/10以下となり回復の見込みがない
(7) 1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの
片腕と片脚について、以下のような状態にあてはまる場合が該当します。
- 片脚を足首以上で切断し、片腕が全く動かせないまたは片腕の関節が完全に麻痺して自力で動かせない
- 片脚を足首以上で切断し、片腕の関節すべてが完全に固まって動かせないか、可動範囲が通常の運動範囲の1/10以下となり回復の見込みがない
高度障害保険金を受け取れるケース
高度障害保険金が受け取れるのは、
保険加入後(正確には責任開始期以後)に発病した病気か発生した事故が原因
で高度障害状態(前章「
具体的にはどのような状態か?
」を参照)になって回復の見込みがない場合です。
高度障害保険金を受け取れるポイント
- 高度障害の原因(発病、事故の発生)が保険の責任開始期以後であること
- 約款に定められた高度障害状態にあること
-
症状が固定して回復見込みがないこと
高度障害保険金が受け取れるかどうかを具体的な事例で紹介すると、以下のようになります。
<受け取れる事例>
○ 脊髄小脳変性症により、自分では食物の摂取、排便・排尿・その後の始末、衣服着脱・起居・歩行・入浴のいずれもができなくなって、常に他人の介護が必要な状態になった
○ 交通事故で両眼の視力を完全に失って回復の見込みがない
○
事故により下半身が麻痺して両脚ともに全く動かせなくなって回復の見込みがない
○ 咽頭がんの手術で声帯をすべて摘出して、声が出せなくなった
<受け取れない事例>
× 脳梗塞の後遺症で右半身が麻痺して歩行ができず、常に他人の介護が必要な状態であるが、食物の摂取は正常な左手で自分でできる
× 糖尿病網膜症と白内障が合併していて両眼とも矯正視力が0.02以下であるが、手術により視力が回復する可能性がある
× 保険の加入申し込み書を提出した後に交通事故にあって下半身が麻痺して両脚が全く動かなくなったが、事故にあった日が保険の責任開始期前であった
高度障害状態の判断については、たとえば、本人や家族は自力で歩くのが困難だと感じていても、生命保険会社の見方としてはなんとか自力で歩けるという判断になるなど、加入者側と生命保険会社とで意見が分かれるような場合もあります。
生命保険会社によって所定の状態に違いはあるか?
高度障害状態の規定は、生命保険の約款に記載されています。複数の生命保険会社の約款を確認したところ、基本的にはその記載内容は同様なもの(「 具体的にはどのような状態か? 」の内容)でした。
高度障害状態の基準については、生命保険会社による違いはほぼないと思ってよさそうです。ただし、実際の判断については、生命保険会社により多少の違いは生じてくると思われます。
たとえば、完全に両眼の視力を失った状態であれば判断に差がつくことは考えにくいですが、身体の自由がきかず他人の介護なしに歩けないという状態は、本当に自力で歩くことができないのかという判断に違いが出てくる可能性はあるでしょう。
団体信用生命保険の場合はどう?
住宅ローンを組んだときに加入する団体信用生命保険(以下、団信)も、 2017年9月以前に加入したものについては 、一般の生命保険と同じように高度障害状態で保険金が出ます(住宅ローンが弁済される)。
2017年9月以前に加入した団体信用生命の場合
住宅金融支援機構のフラット35につける機構団信(2017年9月以前加入分)の規定をみると、高度障害状態を以下のように記載しています。
2017年9月以前に加入した団信の高度障害の状態
- 両眼の視力を全く永久に失ったもの
- 言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
- 中枢神経系または精神に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
- 胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
- 両上肢とも、手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 両下肢とも、足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢の要を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの
「 具体的にはどのような状態か? 」で示した生命保険会社が定める7項目より1項目多いように見えますが、上記項目の(3)と(4)をまとめて一つの項目にしているか分けているかの違いで、内容は基本的に同じになっています。
したがって、 団信の場合も高度障害状態の基準は一般の生命保険と同じといえそう です。
2017年10月以降に加入した団体信用生命の場合
2017年10月以降にフラット35を申し込み、機構団信に加入した場合は、高度障害保障ではなく 身体障害保障 がついています。
この 身体障害保障は、身体障害者福祉法に定められた1級または2級の障害に該当し身体障害者手帳の交付を受けることが、保障の条件 となっています。
これに該当する状態としては、「心臓にペースメーカーを植え込み、日常生活が極度に制限されている(1級)」や「人工透析を受けていて、日常生活が極度に制限されている(1級)」などがあります。これらは高度障害には全く該当しませんが、身体障害保障には該当しますので、新しい機構団信なら住宅ローンの返済をしなくてすみます。
このように身体障害保障になることにより、 住宅ローンが免除される条件が幅広くなった(緩くなった) というのは、利用者にとって大きなメリットです。
ただし、高度障害にあたる「言葉を使えなく(話せなく)なった」といった状態は身体障害保障の対象ではありません。 一部ですが逆に制限されてしまった状態もありますので、その点は理解しておきましょう 。
また、身体障害保障のもう一つのメリットとして、規定の状態に該当したかどうかの判断が 法律に則った公的な基準による ということです。規定の状態に該当するかどうかの判断基準が保険会社独自の基準である高度障害に比べ、保険加入者の納得感が違ってくるのではないでしょうか?
まとめ:条件は厳しいが知っておきたい高度障害保険金
生命保険の高度障害保険金が支払われる高度障害状態は以下のような状態です。
- 両眼の視力を全く永久に失ったもの
- 言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
- 中枢神経系、精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
- 両上肢とも、手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 両下肢とも、足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの
とても大きな障害を負った状態であり、障害の種類によっては認定の判断も加入者からすると厳しいと感じることがあるかもしれません。しかし、大きな障害で通常の生活が困難であり経済的な負担も生じるからこそ、高度障害保険金が支払われるともいえます。
高度障害保険金は、 仮に高度障害状態になったとしても、加入者から生命保険会社に請求しないと保険金が支払われることはありません 。万一の場合のために、このような保険金が請求できることを頭の片隅にでもとどめておきましょう。